あん…
目が覚めたの?
うん。
ゆみ、ぐっすり眠っていたよ。
もう造船所に着いたの?
まだまだよ、空港を出たところからずっと渋滞していて、ようやく走り始めたところ。
そうなんだ。
今日じゅうに造船所へは到着できそうもないわね。
え、着けないの?
うん、もう少しだけ走ったら、どこかで泊まれそうなホテルを探して、今夜はそこで泊まりましょう。
造船所には行けないんだ。
ちょっと無理ね。今やっとパリの街を離れたところだから。
そうなんだ。
今日じゅうに造船所へ着きたかった?
ううん、別に。でも、ちょっと楽しみにしてた。
お姉ちゃん、後ろに見えている街の灯りってパリの街?
そうよ、きれいな街よね。
ね、お姉ちゃん。
どうしたの?
今夜はさ、どうせならパリのホテルに泊まりたいな。
パリのホテル?
うん。だって、どうせ今夜はどこかのホテルで泊まるんでしょう?
それはそうだけどね。
さすがに、また逆戻りしてパリに戻ったら、明日の運転が大変になってしまうわよ。
そうか。
うん。
ね、お姉ちゃん。
どうしたの?
パリって、大きな美術館がいっぱいあるところよね。
そうね。
造船所へ行くの少し遅くなっても良いよ。
どうして?もう船は完成しているのよ。
パリの街の美術館で、有名な名画とかいっぱい見ていきたいの。
そうか、ゆみは美大卒の絵描きさんだものね。
うん!見ていったらだめかな。
一応、予定とかもあるから…
ごめんね、パリはまた今度にして、まずは造船所へ行きましょう。
うん。
それに、パリはまたすぐに戻ってこれるから。
わかった。
車は、夜のハイウェイをフランス郊外へと走り抜けていった。
お姉ちゃん、あそこのホテル Vacancy(空き)って書いてあるよ。
そうね、それじゃ今夜は、あのホテルに泊まろうか。
平屋建ての平べったいホテルだね。
ホテルというか、車で自分の部屋の真ん前まで行って、そこへ車を停めて泊まれるモーテルね。
私、モーテルって初めて泊まるかも。
ゆみたちは、フランスの初めての夜を郊外の小さなモーテルで過ごすことになった。
