ゆみは甘えん坊で人見知りだものね。
え?
それで弘子と一緒にヨット部へ入部したんでしょう。
うん。
さすがお姉さん、祥恵はゆみちゃんのことよくわかっているじゃん。
で、いつヨット部のヨットには乗れたの?
もっともっと先だった。
そうなんだ。
最初は部室に行って座学でヨットのことを学んだの。
それから、ヨットハーバーに行って、そこで初めて大学のヨットに乗ったの。
あの大学って都心の真ん中だよね。ヨットってどこにあるの?
江ノ島。
殆どの大学のヨット部がヨットを置いているのって江ノ島よね。
そんなものなんだ。
それで、ゆみちゃんは江ノ島までお母さんの小ベンツ?
うん、助手席に弘子のこと乗せて一緒に行ったの。
470?
そう。470ってディンギーに乗ったの!
弘子が船の後ろ側でティラーを持って操船してくれて、私はその前側に乗って、たまにメインシートとかジブシートを引いたり出したりしていたの。
たまに?
うん。いつも出したり引いたりしていたら疲れちゃうじゃない。
疲れちゃうって
初日は弘子とずっと一緒に乗っていられたんだけど…
だけど?
次からは私も弘子も1年上の先輩とペア組んで乗るようになったの。
一緒に乗せてもらえなくなってしまったんだ。
うん。まあ、優しい女性の先輩だったから良いんだけど。
まあ、ゆみと乗るようになったら普段は厳しい先輩でも優しくなってしまうよね。
どうして?
だって、当時のゆみって飛び級で進級しているから実年齢より5歳上の学年なんだよ。
現役で大学生だと大学に入るのは18、9。それの5歳下だと…
あ、祥恵!
中学生の子とペア組んでることになるよね。
それは優しくなるわ。
ましてや、背も低くチビで甘えん坊の性格でしょう。
だね。
先輩とも470は上手く乗れたの?
乗れたよ!
先輩がティラーで操船してくれて、私は先輩に嫌われないように一生懸命メインシートやジブシートを引いたり出したりしていたの。
嫌われなかった?
うん。シートって引くの重いんだけど、私が上手く引けなかった時とかは先輩が片手でティラーを持ちながら一緒に引いてくれたの。
それでコーチにヘルムスをやりなさいって言われたのでしょう?
え?なんでお姉ちゃん知っているの?
弘子から聞いた。
どういうこと?
ゆみが先輩とヨットに乗っている姿をテンダー上からコーチが見ていたんだけど、弘子に「彼女にヘルムスをやらせてみても大丈夫かな」って聞かれたんですって。
それで?
弘子が大丈夫じゃないって答えたから、コーチがゆみの乗っているヨットをテンダーへ呼び寄せてヘルムスを代わりなさいって命じたんだってさ。
へえ、なんかよくわからないけどゆみちゃんすごいじゃん!
すごいわけじゃないんじゃないの。
初めてティラーって握ったし、最初は真っ直ぐに進まなかった。
そうだろうね。
でも、だんだん慣れてきたらティラーの方が楽だった。
そうなの?
ジブシートとかって風の力が重たくて引くのもすごい力が要るのよ。でもティラーはそんなに重たくはならなかったから力が無くても操船しやすかったの。
やっぱヨットって動かすのに力も必要なんだね。
その先輩も力の無いゆみのシートを引くのとか手伝わさせられるよりも、ゆみにヘルムスを任せておいて自分はシートトリムとかに徹しられる方が楽だったんだってさ。
そう弘子が言っていた?
うん。
そうか。じゃ、お互いに交代した方が良かったんだね。
それでね、先輩がシートトリマーやってゆみがヘルムスして最初に出場した大学対抗のヨットレースで2人は優勝しちゃったんだってさ。
え、すごい!
その時の優勝カップ、うちのリビングにあるよ。
今度見せてね。
本当、小さな小さな優勝カップよね。
ゆみちゃんの乗る姿をテンダー上から眺めて代われって言ったのはコーチなんだよね。
うん。
そのことを発見したそのコーチってすごくない?
確かに!名コーチだね。
