ゆみ、降りるわよ。
もう着いたの?
お姉ちゃんの手をしっかり握って、ドアが閉まる前に早く降りなきゃ。
ここどこ?
井の頭公園駅。
ええ。
ぜんぜん知らない。
ほら、降りてすぐのそっちの入り口が井の頭公園。東京都では割と大きくて有名な公園なのよ。奥の方に行けば動物園だってあるのだから。
え、動物園があるの?
あるわよ。
動物園に行きたい!
でね、駅を降りたら、こっちの道、短いけど商店街があるでしょう。ここを抜けたら右折、右折したらしばらく真っ直ぐ進むのよ。
お姉ちゃん、動物園へ行こうよ!
ゆみ、ちゃんと聞いてる?
いつまでも道がわからないからって、お姉ちゃんがいないと学校にも通えないんじゃ困るでしょう。
動物園は?
これから学校があるでしょう。
動物園は行かないの?
今度、学校がお休みの日にお姉ちゃんが連れて来てあげるから。
うん、絶対よ!
はいはい。それで、ここまで来たら左折します。
左折。
ちなみに、左折しないで真っ直ぐ行くと正英の家なんだけどね。
え、なに?正英の家って?
良いのよ、別に。私のクラスの、6年生の同級生の話だから。1年のゆみには関係無いの。
お姉ちゃんの彼氏?
何を言っているの?別に彼氏じゃないわよ。
なんだ、違うんだ。
あんたってニューヨーク暮らしの日本語下手くそなくせに、そういう言葉だけは本当よく知っているよね。
はい、そこの先の商店街を左折。
駅から学校までけっこう遠いね。
この商店街の通りはかなり車が通るから気をつけなきゃだめよ。
そこの信号を渡る?
そうね、その方が安全ね。
青になった。
はい、それじゃ渡りましょう。
この信号を渡ったら真っ直ぐ、ほら、学校が見えた!
ここ?
そうよ、あっちの奥の背の高い校舎あるでしょう。
うん。
あっちが中等部の校舎。
中等部って、お姉ちゃんの校舎?
私まだ6年だって。
あっちは?
あれは職員室と2階が図書室。その奥が体育館。
お姉ちゃんの校舎はどこ?
私は小等部だから、その緑の奥の平屋建ての細長い建物。
一番奥から1年、2年って続いているから、お姉ちゃんは一番手前の教室。
わかった。
わかったじゃないわよ。なんで、あんたも6年の教室に入るのよ。
ゆみはきょとんと祥恵を見上げた。
え、
え、じゃなくてさ、ゆみは1年なんだから一番奥の教室よ。
私、お姉ちゃんと同じ教室で良いよ。
そんなわけにいかないでしょう。ほら、お姉ちゃんが一緒に行ってあげるから。
ここで良いって。
そんなわけにいかないでしょう。ほら。行くよ。
ここで良いって。
1年生でも、お姉ちゃんに手を引っ張られて教室へ向かっている人なんて誰もいないじゃないのよ。ほら、ゆみ!ちゃんとしなさい!

