それまで乗っていたヨットは、天井高が155cmぐらいでした。ゆみの身長は160cmです。そのヨットの天井高はけっこう微妙でした。

その前まで乗っていたヨットは、もっともっと天井高の低いヨットでしたが、明らかにキャビンの中で立つことのできないヨットだと諦めがつくというか、しゃがんだ状態でも特に苦もなく過ごせていました。でも、立てそうで立てないという微妙な天井高はマリーナステイしていて苦痛でした。

そんなとき見つけた今回のヨットは、天井高が165cmぐらいありました。たぶん男性の方だったら、ぜんぜん立つこともできず微妙な天井高だったかもしれませんが、160cmのゆみにはぴったしサイズの天井高でした。

キャビンの中は木部も多く豪華なインテリアで、トイレも個室で扉もついているし、温水シャワーも完備で陸電設備も付いており、ベッドもホカホカのぶ厚いクッションが付いており、最高に暮らしやすいヨットでした。

セイリング性能も、一見すると重そうなヨットで走らなそうですが、ちょっとした風にもマストやセイルが反応してくれて、重たい風が吹くと順調に巡航できるヨットでした。またエンジンも大きめのエンジンが付いているため、力強く走ってくれます。

ただ、深くて大きなロングキールが付いているため、後進性能が悪く、バックさせようと思うと、どこに向かっているのかよくわからなくなるヨットでした。今まで停泊するときは、バックで入港していたゆみには初めの頃は駐車するのが大変なヨットでした。

でも、バックができないヨットということで、半ば強制的にバックではなく正面から停泊させられる練習をヨットにさせられてしまい、最終的にバックでなく正面から駐車することを、このヨットに得意にさせられてもらってしまいました。

快適なマリーナステイで、もう一生このヨットで良いというお気に入りになりました。

そんなお気に入りのヨットとの別れは突然やってきました。ある強風の日、マリーナから電話連絡があって、ジブファーラーがばらけていると伝えられました。

「バラけてしまったファーラーは巻き直せば良いか」

そう思いながらマリーナへ到着すると、状況はぜんぜん違っていました。ファーラーがバラけたというわけではなく、マストが強風で折れてしまっていました。上半分の折れたマストはブラブラしており、そのせいでバラけているジブファーラーは巻き込むこともできませんでした。

「お母さん、どうしよう」

思わず自宅のお母さんに電話して、電話越しに泣いてしまいました。

泣いてばかりいられないので、ファーラーをデッキに下ろしてデッキ上で巻き直して、デッキに巻きつけました。マストの上の方でブラブラしているマストは下の方からもロープでぐるぐる巻きにして、ある程度は揺れないようにしました。

「高くて、ゆみの予算じゃ修理なんかできないよ」

木製の1本ものの立派なマストのヨットです。どうしたらいいの?あっちこっちに相談し、検討した結果、こういう木製のクラシックタイプのヨットが好きな方は多いみたいで、自分で修理して使うからと購入してくれる方も何名か現れました。

そんな中で、購入してくれるだけじゃなくて、ゆみが代わりに乗るための小さなヨットまで提供してくれるという話まで頂けました。

そして、ゆみの中で、このヨットはご臨終となり、お別れとなってしまいました。