中古車輸出・第160話
「こういう展示場形式のヤードを、もっと多くの国々で持てたらいいのにな」
社長は、小倉と経理担当に話していた。
「そんなに、上手く見つかりませんよ」
経理担当は、社長の欲に苦笑していた。
「でも、カンパラの手数料があるから輸出部門の毎月の売上げ確保が楽になっただろう」
「本当に、楽になりましたよ」
小倉は、社長に返事した。
「こういう展示場形式のヤードを、もっと多くの国々で持てたらいいのにな」
社長は、小倉と経理担当に話していた。
「そんなに、上手く見つかりませんよ」
経理担当は、社長の欲に苦笑していた。
「でも、カンパラの手数料があるから輸出部門の毎月の売上げ確保が楽になっただろう」
「本当に、楽になりましたよ」
小倉は、社長に返事した。
「もうカンパラ大作戦は、うちで預からなくても、蒲原さんと受講生たちだけで十分に販売していけそうだな」
社長は、カンパラ大作戦の成功に満足そうだった。
「うちは、何もしないで手数料だけ入るの良いですね」
小倉まなみは、社長に笑顔で報告していた。
「小倉は、よく蒲原さんのメールを見落とさなったな」
「たまたまですけど」
小倉は、社長に褒められ照れていた。
「うちの受講生達にもカンパラ大作戦のこと教えてやれ」
社長は、育成部門の担当者達に命じた。育成部門担当者達は、受講生たちに横浜の貿易会社でカンパラに展示場を持ったからカンパラで売れると知らせた。
「販売手数料はどのぐらいですか」
「カンパラで販売するには、どのようにするのですか」
受講生たちからの反応はよく、カンパラ大作戦用の自動車は、うちの横浜の貿易会社で輸出しなくても、受講生たちが輸出する自動車だけで展示場は満杯になってしまうほどだった。
「うちは、車を仕入れてウガンダに輸出してあげれば良いだけだ」」
社長は、輸出担当を全員集めると、内容を説明した。
「題して、カンパラ大作戦と名付けようと思う」
小倉まなみと社長が中心になって、カンパラ大作戦のプロジェクトは進行することとなった。
「うちは車を輸出してあげるだけ」
「後は、蒲原さんが現地で販売するんですよね」
「横浜の貿易会社の名前も、現地の販売場に掲載してもらえるんだ」
「なんだか、おもしろそうな話じゃないか」
社長は、小倉まなみに言った。
「とりあえず、俺と小倉で会ってみようか」
「今は。日本に帰ってきているらしいです」
「会社まで来てもらって打ち合わせようじゃないか」
「相手は、日本人ですし日本語で打ち合わせできます」
「そうだな」
「ゆみちゃんが、返事してみてよ」
小倉まなみは、ゆみに命じた。
「この人、日本人だったよ」
ゆみは、その海外バイヤーからもらった返事を、小倉に説明した。
「ウガンダのカンパラの街中に、広い土地を持っているんですって。それで、そこに日本から輸入した中古車の一台基地を構えて、そこで車を販売したいんですって」
小倉は、ゆみの話を社長に説明した。
「ゆみちゃん、このメールなんだろう?」
小倉まなみは、ゆみに質問した。
「なんだろう、よくわからない」
小倉まなみが質問したメールは、横浜の貿易会社に問い合わせてきたメールで、アフリカに大きな市場を開きたいのだが、支援してもらえないかというものだった。
「この人に返事してあげた?」
「ううん、私はまだ何も返事してないけど」
「俺も、もうちょっと社長とはやっていられないわ」
輸出部門の部長は、社長との打ち合わせ後に愚痴を呟いた。
「いや、やはりもう無理だわ」
そして、部長は、ゆみの勤める横浜の貿易会社を辞めてしまった。
「小倉、輸出部門の部長だけど、おまえがやってくれるか」
「私ですか?」
「ああ、シャランやゆみとか皆をまとめてくれ」
そして、小倉まなみは輸出部門の部長職に就いた。
「ゆみちゃん、次からちゃんと覚えておきなさいよ」
経理担当は、ゆみに命じた。
「次のポルシェ出す時に、また船会社から聞かれるかもしれないし」
ゆみは、経理担当に頷いた。
「はーい」
その後、ドイツの海外バイヤーとのお付き合いは長く続き、かなりの数のポルシェやらベンツやらを輸出することになったが、船会社の担当窓口の人も覚えていてくれたので、聞かれることはなかった。
「なんだかわからない車ね」
経理担当は、ドイツ行きの船会社との電話を切ると呟いた。
「ゆみちゃんのポルシェって、古いポルシェばかりだから故障しているんでしょう」
シャランは、経理担当に聞いた。
「そうじゃないらしいのよ。ポルシェって普通の車と違って、アクセルとギヤの入れ方が特殊で、どうとかこうとかしてじゃないとエンジンが掛からないんだそうよ」
「へえ、そんなの知らない。初めて聞いた」
「ね、ゆみちゃん」
経理担当は、ドイツに出航している船会社の担当者と電話で話しながら、ゆみのことを呼んだ。
「はーい」
「ポルシェのエンジンの掛け方ってどうやって掛けるの?」
経理担当は、ゆみに質問した。
「キーを差して、キーを回してかけるんじゃないの」
「それだと掛からないらしいのよ」
ゆみは、ポルシェのエンジンの掛け方で検索してみた。
「ポルシェとベンツが届いたって」
ゆみは、ドイツの海外バイヤーから来たメールを読んで、報告した。
「2回目の輸出分のこと?」
「うん、それでこれから4回目のポルシェの注文打ち合わせるの」
「あら、すごい!もう4回目分」
経理担当は、ドイツ海外バイヤーからの注文サイクルの速さに驚いていた。
「明日、3回目のポルシェは船積みされるわよ」
「これがいいかな」
ゆみは、ジャマイカの海外バイヤーとも相談して、トランク部分に大きなウーファースピーカーの付いた日産テラノを中古車オークション会場から落札した。
「ゆみちゃんのバイヤーって、大きなスピーカーとかバスの運転手したいとか個人的なこと話す海外バイヤー多いよね」
「ゆみちゃんが聞き出し上手なんじゃないの」
経理担当は、シャランと話していた。
「きっと、海外バイヤーの気持ちをうまく引き出しているから、ちょいちょいと海外バイヤーから送金してもらえるのよ」
「シャラン、最初の車から種類って変えてもいいの?」
「何それ、わがままじゃない」
シャランは、ゆみに返事した。
「別に変えても良いんじゃない、送金額で買えるのなら」
「そうか!そうよね」
ゆみは嬉しそうに、経理担当に答えた。
「何の車に変えるの?」
「テラノ、大きなスピーカーのついているやつ」
「入金あったわよ」
経理担当は、ゆみに伝えた。
「落札してもいいの?」
「それは、私でなく海外バイヤーさんに聞きなさい」
ゆみは、ジャマイカの海外バイヤーと話していた。
「アウトランダーじゃなくてテラノがいいな」
「え、今から車の種類を変えるの?」
「ああ、なんか友達のテラノがでかいスピーカー付いてて」
ジャマイカの海外バイヤーは、ゆみに言った。
「ジャマイカって南米かな」
「南米じゃないよ、カリブ諸島よ」
シャランは、世界地図に乏しいゆみに苦笑していた。
「そうなんだ、私の初めての南米海外バイヤーだと思ったのに」
「なんか車の注文がきたの?」
「うん、三菱のアウトランダーが欲しいんだって」
「入金は?」
「さっき、銀行から送金してくれたそうよ」
「じゃ、まだこっちに届くのは数日掛かるか」
「青色をベースにしたホームページのご希望ね」
「それで、少し和風テイストにしてほしいのだそうだ」
ゆみは、育成部門担当と打ち合わせしていた。
新しい受講生の海外バイヤー向けホームページを作ることが、輸出部門に配属しているゆみにとって、唯一の育成部門の担当者達との接点だった。
それが、社長の方針でもあり、横浜の貿易会社の育成部門での方針でもあった。
「ゆみちゃん、新しい受講生が1人入ったんだけど」
「はい、わかりました」
ゆみは、育成部門担当から新しい受講生からのホームページ依頼の資料を受け取った。新しい受講生の海外バイヤー向けホームページも、ゆみが制作していて、新しい受講生達は、そのホームページを基に自動車輸出業をスタートするのだった。
「私、自動車整備工場を退職した後、1人で車の販売していた頃はホームページの修正がうまくできなくてイライラしていたけど、ゆみちゃんに任せられるのすごい気が楽になる」
「そうだろう、ホームページは専門家に任せておけばいいのさ」
小倉は、社長と話していた。
「ホームページを任せておけば、その分、本来の営業に集中できるだろう」
「ええ、本当に全くそうです」
「ね、ゆみちゃん。ホームページなんだけどさ」
小倉は、ゆみにホームページの構成を指示していた。
「ここのところを、もう少し車の写真を大きめにできないかな」
小倉は、以前社長に言われたように、自分は商談中心に進めながら、ホームページの構成については、ゆみを指示して内容を修正させるようになっていた。
「こっちの写真を大きめにすれば良いのですね」
ゆみは、小倉に言われるように修正していた。
「今月の売上げだけど、さすがだな」
社長は、月末の売上げ報告会議で小倉を褒めていた。
「今月も、ゆみちゃんの海外バイヤーからの送金額多かったんだけどね」
経理担当が、社長に言った。
「それでも、小倉の送金額の方が多かったのはプロフェッショナルだな。この感じで、営業担当皆の売上げがどんどん伸びていってくれれば、ゆみは、また本来のサイト制作だけに戻れるのだけどな」
社長は、小倉の初月受注額に満足そうだった。
「ホームページ作りは特殊だからな。だから、うちでやってる育成部門の受講生たちのホームページ自体も、こいつに作らせて、後はそれを基に海外バイヤーと商談を進め、車の輸出することをメインに教えていっているんだ」
「なるほど」
「小倉も、ホームページはゆみに任せて、海外との商談をどんどん進めていってくれ」
小倉まなみは、社長に言われたように商談中心に進めていくことに徹していた。
ゆみがプログラミング言語を使ってホームページを作っている姿を、小倉まなみは眺めていた。
「私、その方面があんまり得意じゃないんだよね」
小倉まなみは、ゆみに話しかけた。
「私、車の整備とか仕入れ、販売はぜんぜん何とかなるんですけど、海外相手の輸出だと英語は中学生レベル、日常会話程度で何とかなっても、ホームページとかこっち方面が難しいなって」
小倉まなみは、ゆみの作業を眺めながら社長と話していた。
「すごい、この人!」
ゆみは、最初の1件目の注文を取るまでに1ヶ月ぐらいモタモタしていたのに、わずか数日であっという間に1台目の車を輸出してしまった小倉まなみだった。
「小倉さんは、もともと車のベテランなんだから大丈夫よ」
経理担当は、落ち込むゆみのことを慰めてくれた。
「ね、ホームページ作れるんだ、羨ましいな」
そんなゆみのことを、小倉まなみは羨ましそうだった。
「はい、着きましたよ」
中山先生は、5階で降りると目の前のドアの鍵を開けた。前のように、ゆみと良明が廊下を追いかけっこすることもなかった。
「あ、猫!」
玄関に入ると、2匹の猫が2人のことを出迎えてくれていた。
良明とは、面識があるらしく灰色の猫が撫でられていた。
「かわいい猫」
ゆみは、もう1匹いる白い猫の方を撫でてあげようとしゃがんだ。
「良明君って、先生の家を知っているんだ」
「ついこの間、遊びに来たばかりだからね」
中山先生は、ゆみと話していた。
「はい、ありがとう」
中山先生は、エレベーターのドアを開けて、待っていてくれた良明にお礼をいうと、ゆみと一緒にエレベーターの中へ乗りこんだ。
「本当に5階であっているの?」
ゆみは、前に良明の家へ行った時に、エレベーターで追いかけっこした時のことを思い出して、良明に確認していた。
「さあ、次で降りるわよ」
中山先生は、2人を連れて電車降りた。
「先生の家って、この駅から近いの?」
「うん、駅を降りたらすぐよ」
中山先生は、電車を降りると、階段を上がって地上に出た。地上に出ると、良明は先生の手を離して、2人のずっと前、先頭を走っていき、アパートメントのエントランスから中に入ってしまった。
「中に入ってしまったよ」
「あそこが先生の家だからね」
中山先生は、ゆみに言った。
中山先生は、2人を連れて、電車の先頭車両、一番前に連れていった。
「ほら、おもしろいでしょう」
中山先生は、2人に電車が線路を走っていく姿を窓から見せた。良明は嬉しそうに電車が進んでいく線路を眺めていた。
「ほら、これから地下に入るからね」
中山先生が言うと、今まで地上の高架橋の上を走っていた地下鉄が、マンハッタンに入る手前から地下のトンネルの中へと走っていった。
「良明君、そんな先に先に行かない方がいいよ」
ゆみは、地下鉄のホームを走っていく良明に声をかけた。
「良明君、こっち来なさい」
中山先生が良明のことを呼び戻すと、良明の手も握った。その前から大人の中山先生の手を握っていたゆみのことを、さすがニューヨークの地下鉄の危険を理解していると感心して眺める中山先生だった。
「地下鉄の中では静かにしましょうね」
中山先生は、2人に告げると、やって来た電車に乗りこんだ。
実際には、ゆみが教えられることなど殆ど無かった。
「海外バイヤーからのオファーは、ここのメールボックスから来ます」
ゆみがほぼそれだけ伝えると、小倉まなみはすぐに海外バイヤーとコンタクトを取り、メールで何回かやり取りをすると、すぐに海外バイヤーから会社に送金があった。
「入金ありました」
「ありがとうございます」
小倉まなみは、あっという間にオークション会場から車も仕入れてしまっていた。
彼女が皆に年齢を告げたのを聞いて、ゆみは思った。小倉まなみは。シャランよりも3つ下、ゆみの姉と同い年だった。
「輸出のことは全然わからないから教えてね」
「ゆみちゃん、日本人同士なんだし教えてあげなね」
「ゆみ先輩、お願いします」
小倉まなみは、ゆみに言った。
霧島さんの代わりに新しく入って来たのが、小倉まなみだった。
「小倉まなみといいます、宜しくお願いします」
小倉まなみは、皆に挨拶した。
ゆみは、日本人スタッフなので育成部門の配属かと思っていたが、車の修理工場で働いていて、自動車の整備やオークション会場での仕入れ、検査関連などの大ベテランだった。
「お姉ちゃんと同い年」
新しく入った霧島さんのおかげで、その月の売上げ会議では初めて育成部門が輸出部門の売上げ金額を大きくこえてしまった。
「この業界内で、このぐらい知名度が上がれば、自動車関連に興味のある人は皆、うちの通信教育を受けてから自動車輸出を始めるようになりますよ」
霧島は、社長に伝えた。
そして、彼は自分がこの会社で出来ることはもう無いからと、次のマーケティングへ向けて、横浜の貿易会社を退社し去っていった。
週明けから入社して来た彼の名前は霧島といった。
「彼は、マーケティング部門に強い方だ」
社長は皆に紹介した。今回、入社してきた彼は、ゆみたちのいる輸出部門ではなく、輸出を教える育成部門の方だった。
「宜しくお願いします」
そして、彼は本当にマーケティングに強いようで、育成部門のやっている自動車輸出の通信教育なら横浜の貿易会社ということを国内の多くに広めてしまった。
「はい」
「あの面接に来たのですが」
デスクが入り口付近のゆみは、男性を社長室へ案内した。
「なんか珍しいね、日本人だよ」
ゆみは、シャランと話していた。
横浜の貿易会社では、外国人スタッフが多く入れ替わりの激しい輸出部門なので、頻繁に社員募集していて、応募してくる多くは外国人の人だった。
「あの人が入社したら、日本人同士のゆみが教えるんだよ」
「私?部長が教えてくれるよ」
「シャラン、パラマリボってアフリカ?」
「アフリカじゃないよ、南米よ」
「南米なんだ、私まだ南米の人とは話してことないな」
「頑張ってやってみれば良いじゃん」
ゆみは、シャランと話していた。
輸出業者の育成事業の方は男性の日本人スタッフばかりだった。輸出部門には、シャランという外国人ではあるが女性スタッフがいるので、ゆみとしては、なんとなく男性ばかりの環境よりも、輸出部門の方が働きやすくはあった。
ゆみは、帰国子女で英語がわかるということで、海外向けの自動車輸出サイトを作ると、その後はそちらの方がメインになってしまっていた。
「サイトを作るのは、私たち得意なんですけど」
「その後のサイトの集客力があまり得意じゃないんですよね」
「そうか、マーケティング力だよな」
社長は、彼らから報告を受けていた。
自動車輸出の通信教育サイトを盛り上げるために、いろいろな方面からの案内サイトを作ってはSEOなどで拡散して受講生を増やしていくのが、彼らの仕事だった。
「吉村さんのサイトがアクセス順調なので」
「そうか、女性向けの案内サイトは新鮮かもしれないな」
社長は、彼らとサイトの集客について相談していた。本来、ゆみも輸出部門ではなく、こちらの担当に入るはずだった。
横浜の貿易会社では、海外へ車を輸出するビジネスを後進に伝える事業も行なっていた。こちらのビジネスの客層は、海外ではなく国内の日本人だった。
「今月は何人ぐらい受講生を取れそうか」
社長は、育成事業の方の担当者たちに聞いていた。
「そうですね、少しSEOが伸びてきてるので良い方向にはあるかと」
こちらは、日本人スタッフ3名で担当していた。
ブロードウェイの地下鉄は、メインストリート通りの上空に線路があって、そこを走っていた。
「それでは、地下鉄に乗って出かけましょうね」
中山先生は、2人を連れて地下鉄の改札にトークン(地下鉄用コイン)を入れると、改札を通り抜けて駅のホームへと上がった。
「良明君、そんなに先へいかないの」
良明は1人先頭を歩いていたが、ニューヨーク暮らしの長いゆみは大人の中山先生の手を握って、一緒にくっついて歩いていた。
「良明君、ゆみちゃん」
ブロードウェイの地下鉄駅に上がる階段の前で、中山先生が待っていた。
「今日は、宜しくお願いします」
隆は、中山先生に挨拶した。
「それじゃ、後で夕方に迎えに行くから」
隆は、ゆみに伝えると、良明のお母さんと一緒に車で帰ってしまった。
「行きましょうか」
中山先生は、ゆみと良明を連れて歩き出した。
「ここの棚に入っているものは、ヨーロッパから取り寄せたとっても良い食器なのよ」
「お母さんも、変なこと言い出さないでよ」
麻美子は、自分の両親たちに苦笑していた。
「隆は、明日横浜のマリーナ行くのに早いし、そろそろ寝る?」
「そうだね」
「じゃ、弟の部屋のベッドメイクしてくるね」
「いいよ。そのぐらい自分で出来るから」
と、隆は弟の部屋に1人で行ってしまった。
「隆くんが、うちの会社で貿易商になってくれると言ってもらえるなら、こいつの弟なんて、すぐに下ろして、サンフランシスコ店の支店長に昇格させるけどな」
「お父さん、隆が返事に困るようなこと言わないの」
麻美子の父は、隆のことを自分の貿易会社に誘っていた。
「お母さんも、隆くんが、うちの麻美子と一緒になってくれたら、中目黒の実家にあるもの全部、隆くんに譲ってしまうわ」
麻美子の母は、キッチンにある食器棚の中を眺めながら、隆に話しかけていた。
「だってよ」
「別に良いんじゃない」
麻美子は隆に答えつつ、父にも答えた。
「そうなんだ。少し前に、LINEで弟と話した時に、私が隆の買ったヨットに毎週末乗っているって話をしたんだ。そしたら、ヨットなんてサンフランシスコじゃ、周りじゅう海に囲まれていて、あっちこっち走っているから全然珍しくないってさ」
「そうなんだ。サンフランシスコなんてヨットマンには羨ましい環境だよな」
「次の海の日の三連休も、あなたたちはヨットでお出かけするの?」
「そのつもりだよ」
麻美子は、自分の父親に返事した。
「まあ、次の三連休はヨットで出かけてもいいけど、その後の週末は、仕事で弟が帰ってくるぞ」
麻美子の父は、姉である麻美子に伝えた。
「それじゃ、再来週は泊まれませんね」
「隆さんは、麻美子の部屋に予備ベッド持っていって、そこで寝たら良いわよ」
ゆみの勤める横浜の貿易会社では、実際に自社が車を海外へ輸出する事業とは別に、海外へ車を輸出するビジネスを後進に教える事業を行なっていた。
「パキスタンやミャンマーなど悪質な外国人自動車輸出業者が多すぎる」
社長は、自動車輸出業についてよく嘆いていた。そして、自動車輸出ビジネスを後進、主に日本人業者たちに通信教育という形で教えることで、質の良い自動車輸出業者を増やすことに貢献していた。
「もう全部の車を落札しちゃったの」
経理担当は、ゆみの落札の早さに驚いていた。
「このぐらいのスピードで入金から落札までスムーズだと、会社の動きも良くなるわ」
経理担当も満足そうだった。
「中古車の育成講座の方はどんな調子だ」
社長は、仕事の状況を確認していた。
「今回の入金もドイツからなの」
経理担当は、会社口座の入金額を確認しながら嬉しそうだった。
「これは何の車を輸出するの?」
「ベンツ」
「ベンツもいろいろな車の種類があるからね」
「車はもう決まっているの」
ゆみは、経理担当に答えた。そして、中古車オークション会場のサイトにログインすると、ドイツ海外バイヤーご指定の車を入札、落札してきた。
「おーい、どの車も良いね」
ドイツの海外バイヤーは、ゆみが送った車の写真を確認してから返事をくれた。
「うん、今回のポルシェはこれにしよう」
ポルシェの方の車は決まった。
「それで、ベンツなんだけど3台とも良いから落札しよう。金の方はすぐに送金の手配するから」
ベンツの追加オーダーまで決まってしまった。
「いや、やっぱ少し高すぎるな」
ゆみは、何回かプロフォーマインボイスを書き直してあげたのだったが、マツダボンゴフレンディーが欲しいという海外バイヤーとは価格の折り合いがつかなかった。
「よし、このプリウスで行こう」
「気に入ってくれてよかった」
「すぐに振り込むよ」
その代わり、ニュージーランドのプリウスバイヤーからの入金は取れたのだった。
「すごいじゃない、キャンプとか行くの」
ゆみは、ニュージーランドの海外バイヤーと話していた。
「アウトドアが好きでね」
「それでマツダのボンゴフレンディなのね」
「そう、屋根が大きく上へ開くところが良い」
ニュージーランドの海外バイヤーは、ゆみに告げた。動物好きのゆみは、アウトドアで自然と過ごしたいというこの海外バイヤーには是非とも車を輸出してあげたかった。
ニュージーランドは、日本から輸出できる車に車台番号(各自動車が持っている規格、個別番号)で制限があって、多くの輸出車輌は大概FOB(日本港渡し価格)で輸送されていた。船賃は、現地に到着時、海外バイヤーが支払うのだった。
「船賃の計算しなくて良いから楽でいいわね」
ゆみは、単純に考えていた。
「でも、ニュージーランドの海外バイヤーは価格厳しいわよ」
経理担当は、ゆみに忠告していた。
ニュージーランドの海外バイヤーは、現地の車屋さんだった。
「ユミー、白いプリウスはないか」
「こんなのあるよ」
「それは車台番号が合わない」
「それではこっちは?」
「こんな感じかな」
「そうだな、内装がもう少しきれいな感じで」
さすがプロの車屋さんだけに、商談は終始リードされて、ゆみの方がずっと押されっぱなしだった。
「240万の入金があったんだけど」
ゆみが出社すると、経理担当が大声をあげていた。
「ニュージーランドだったら私かもしれない」
ゆみは、経理担当に返事した。
「どこの国かじゃなくて、入金額で確認してちょうだい」
経理担当に言われて、ゆみはシャランと一緒に自分で書いたプロフォーマインボイスを見直していた。
「ゆみちゃんみたい」
シャランが経理担当に告げた。
マラウィの海外バイヤーが毎日ザンビアまで運転しているバスは、マラウィの村人たちにとっても大切な交通手段で、何かあると村人みんなで手伝ってくれていた。
「なんか良いな」
ゆみは、その話をマラウィの海外バイヤーから聞いて、なんか心が暖かくなった。
「1人で毎日運転しているのは休めないし大変なんだ」
マラウィの海外バイヤーは、いつか他にもバスの運転手さんになってくれる人が増えてくれるといいなと、ゆみに告げていた。
「ありがとう、英語訳もついててわかりやすいよ」
マラウィの海外バイヤーは、ゆみの送ったマニュアルを見ながら、バスのオイル交換した。
「相当走ったバスなんだね、オイル真っ黒だったよ」
「透き通ったきれいなオイルに変わったよ」
マラウィの海外バイヤーは、自分1人だけでは交換できなかったらしく、いつも乗車してくれるお客さんにも手伝ってもらってオイル交換を済ませたらしかった。
「あ、これこれ!」
ゆみは、経理担当からバスのマニュアルを受け取ると、オイル交換のページを開いて、書いてある内容をメールに書き写してからマラウィの海外バイヤーさんにメールした。
「ありがとう、でもよくわからないよ」
「ごめんね、私の書き方が悪いのよね」
ゆみは、改めてマニュアルのオイル交換ページを図柄入りでスキャンして英訳し、メールに添付して海外バイヤーにメールし直してあげた。
「あ、これ」
ゆみは、自分がいつも乗っている赤い小さなベンツのマニュアルを手にしていた。
「あら、そのマニュアル探していたの?」
「あ、違った。前にマラウィに古いバスを送ってあげたじゃない」
「ぜんぜん違う車じゃないの」
経理担当は、ゆみの手にしているマニュアルを書棚に返しながら、日野のバスのマニュアルを探した。
「アフリカだったら、自分でやるかもしれない」
シャランは、ゆみに返事した。
「オイル交換の何が知りたいの?」
「どこのフタを開けたらいいかわからないらしいの」
「マニュアルとか無いのかな」
シャランに言われて、ゆみは思いついて経理担当の後ろのマニュアル類が置かれている書棚を探し始めた。
「オイル交換?私も知らないわよ」
会議が終わると、すぐにゆみは経理担当に質問した。
「自分の車のオイル交換はどうやっているの?」
シャランは、ゆみに聞いた。
「東京の、家の近くのガソリンスタンドに持っていっているけど。そうよね、オイル交換なんて、自分でやったりしないよね」
ゆみは、シャランに言った。