NY恋物語・第145話

絶交と言っていた由香だったが、ゆみの様子が気になり、数日後には隆とLINEしていた。
「ねえ、大丈夫?なんか困ってない?」
由香は、ゆみとLINEで話していた。
「クラスに日本人のお友達ができたのよ」
「そうなの、良かったじゃないの」
由香は、毎日のように、ゆみと話すようになっていた。ゆみも、学校で会ったことは全てまず由香に話してから、夕食の時に隆へ報告するようになっていた。

NY恋物語・第144話

「ねえ、お母さんどう思う?」
由香は、機内でお母さんに話しかけた。
「おまえは日本の大学行けよだってさ」
「そうね、あなたもニューヨーク残って良かったのにね」
「全く!隆ってあいつさ」
由香は、機内にいる間ずっと機嫌が悪かった。
「もう、あいつとは絶対に話さないんだ、絶交よ」

NY恋物語・第143話

「俺たち、夫婦じゃないんだからさ」
隆は、由香に言った。
「由香は、日本に帰って大学へ行けよ」
「この子は私にとっても子供のようなものだし、私は別に隆とさ」
「おまえは、大学へ行けるんだから進学しなよ」
隆って優しいんだけど本当鈍感だよな、そう思いながら、由香は家族と一緒に日本へ帰国する飛行機に搭乗するのだった。

NY恋物語・第142話

しかし、隆の大学進学の夢は叶わなかった。
「俺さ、日本の大学は行かない!」
隆は、由香に伝えた。
「そうだね、私もニューヨークに残るよ」
由香は、生まれたばかりのゆみを抱きかかえながら、隆に言った。
「何を言っているの?」
「隆が働いている間、この子を育てていく人も必要でしょう」

NY恋物語・第141話

その後、隆も由香と同じ慶應大学の経済学部を受験してみることとなった。そして、2人とも大学に合格が決まった。
「すごいじゃない!おめでとう!」
「俺が日本の大学に行ったら、お母さんはその子を1人で育てることになってしまうね」
「何を言っているのよ、この子にはお父さんもいるでしょう」
隆の母は、大きなお腹を撫でながら、隆に言った。
「向こうからメールとかするね」

NY恋物語・第140話

「由香はラッキーだよな、卒業と家族の帰国が同時だから、卒業したら家族と日本に帰れば良いのだから」
隆は、由香に答えた。
「俺は、卒業しても家族は帰国じゃないんだよ」
「だから、隆だけ進学のため帰国すれば良いでしょう」
由香は、隆に言った。
「もう大学生なのだから、親元離れて独立しなさいよ」
「そうだな」

NY恋物語・第139話

隆のお父さんは、いま隆が働いている日本の大手商事会社のニューヨーク支店勤務だった。由香のお父さんは、その商事会社の取引先でもある貿易会社を経営する社長さんだった。
「将来、父の会社は弟が継ぐんだけど」
由香は、同級生の隆と話していた。
「私も父の会社で働きたいし、経済の勉強したいから日本で大学の経済学部へ進学する」
「それ良いよな、俺も日本の経済学部に進みたいな」
隆は、由香に答えた。

NY恋物語・第138話

ゆみが生まれる少し前、隆はクイーンズの日本人学校に通う高校生だった。
「隆は、まだ進路決まらないの?」
「ああ」
隆は、由香に答えた。
「隆も、商事会社に就職したいんでしょう。だったら経済の勉強するのが良いって」
「それはそうなんだけどさ」
隆は、由香に答えた。
「由香は、卒業後に家族と帰国だろうけど」

NY恋物語・第137話

ゆみは、いつも学校から帰ると、家には犬のメロディしかいなかった。
「ただいま、メロディ」
ゆみは、メロディに言った。
隆は、まだ会社で仕事中なので帰って来ていない。隆が帰って来るまでの時間は、パソコンでLINEを起ち上げながら、家で勉強したり夕食の準備をしている。
ゆみのLINEの相手は由香お姉ちゃんだった。

ヨット教室物語・第117話

「ちょっとUターン、タックして様子を確認してくるか」
隆は、すぐ側にいた陽子に言うと、陽子は左側のウインチにジブシートをセットして、隆の方向転換に合わせて、ジブセイルの位置を右から左に入れ替えた。
「陽子はすごいな、もう完全にタックのやり方覚えてしまっているじゃん」
隆は、麻美子の方を振り向かないようにしながら、陽子に言った。
「どうせUターンするなら、最初から言うこと聞きなさいよ」
陽子は、麻美子が隆の頭をコツンと小突いているところを見てしまって、苦笑してしまっていた。ラッコは、ゴールとは反対方向のアクエリアスに向けて走り始めた。

ヨット教室物語・第116話

「いや、アクエリアスは大丈夫だと思うぞ」
隆は、麻美子に言われて、後ろをチラッと振り向きながら返事した。中村さんのアクエリアスは、隆が、いま乗っているラッコのヨットを買う前まで、ずっとクルーとして乗っていたヨットだった。
あともう少しで目の前の黄色ブイを回れるし、そこを回ったら、もうゴールも目前だし、このままアクエリアスの事は、ほっておいてゴールしてしまおうかと考えていた。
しかし、チラッと麻美子の方へ目を向けると、麻美子の目が、後ろで困っている艇がいるというのに、あんたは、ほったらかしにしてゴールを目指すのかというきつい目をして睨んでいるように見えた。

ヨット教室物語・第115話

絡まり合ってしまっていたアクエリアスのセイルは、一向に外れず絡まったままの状態で、ずっと走り続けていた。隆は、後ろのアクエリアスのことは、ぜんぜん気にせずにラッコを前方へと走らせていた。
「隆、助けに行って上げようよ!」
まったく後ろのアクエリアスのことなど気にもせずに、自分のラッコがレースでゴールする事だけ考えて前方へ走らせている隆の姿を見た麻美子は、なんか隆が冷たい奴に見えてしまい、思わず声が大きくなってしまっていた。

ヨット教室物語・第114話

麻美子は、ずっと絡まったままのアクエリアスのセイルを心配そうに眺めていた。
アクエリアスの中村さんとも、冬の間、隆と2人だけで乗っていた時に、何回か沖合いで会ったことがあった。東京で歯医者さんを営んでいる先生で、ヨットでも、麻美子が舫いロープを結べずにいた時に、いつも手助けしてくれるとても優しい良いおじさんだった。
「ね、助けに行って上げようよ」
後ろを気にして、ずっとアクエリアスの様子を眺めていた麻美子が、隆に言った。

ヨット教室物語・第113話

レース後半、帰りのコースは、風向き的に追っ手、船の後ろから吹いてくる風だったため、中村さんのアクエリアスではスピンネーカーを上げたのだろうが、スピンネーカーがジブセイルのシートと絡んでしまったらしく、ジブセイルとスピンネーカーのセイルが絡まりあってしまっていた。
「助けに行ってあげないの?」
「自分たちでなんとかするだろうよ」
隆は麻美子に答えた。

ヨット教室物語・第112話

「あらら、なんかスピンが絡まっているよ」
ゴールとは反対方向の後ろを眺めていた麻美子が指差しながら叫んだ。
スピンとは、追い風の際に上げてヨットを走らせるセイルのことで、正確にはスピンネーカーと呼ばれるふっくらと丸い形をしたセイルのことだった。
ヨットのセイルは、メインセイルもジブセイルも基本的に白色のものが多いのだが、スピンネーカーのセイルだけは赤やら青やら何色もの色でカラフルに彩っているセイルが多かった。

ヨット教室物語・第111話

ようやく赤ブイに到達して、ブイを回ってUターンして復路に入ったラッコがゴールへ向けて走っていると、ゴールラインで待っていた地井さんのモーターボートからラッコのところにも
フォーーーン!
と微かにホーンの鳴る音が聞こえてきた。
「お、レース艇のウララがゴールしたな」
「さっき、すれ違った船でしょう、速いね」
隆は、ラッコのステアリングを握りながら、聞こえてきたホーンの音に反応していた。

ヨット教室物語・第110話

「お帰りなさい!」
隆たちラッコのクルーたちは、復路のコースを戻ってくるところとすれ違ったウララのクルーたちに、サンドウィッチ片手に笑顔で手を大きく振って挨拶していた。
「まだレースは、終わっていないぞ」
ウララの松浦オーナーは、ラッコの方を見て笑っていた。
ウララのクルーたちは、まだクラブレースの真っ最中で、お昼ごはんのサンドウィッチどころではなかった。ウインチにジブシートなどを巻きつけて、ウインチハンドルを回して引っ張ったり出したりとセイルトリムに大忙しだった。

ヨット教室物語・第109話

結局、クラブレースのラッコは、後ろに中村さんのアクエリアス、ラッコと同じパイロットハウスの付いた重たいクルージング艇を1艇従えての堂々と最後尾、ブービーでゴールすることとなった。
まだ、ラッコは一番先にある赤ブイまでも到達していないというのに、一番先頭を走っていたウララは、既に赤ブイを回ってUターンして、復路のコースをゴールへ向かって走って戻ってきていた。
もうとっくの昔に、クラブレースの順位など諦めているラッコのデッキ上では、ピクニックテーブルを広げて、麻美子の作ってきたサンドウィッチをお皿にだし、ランチパーティーの真っ最中だった。

ヨット教室物語・第108話

「せっかく1番だったのに、なんか皆に追い抜かれてしまったよ」
「それは無理だよ。うちのラッコは、船内にフィンランドの木材が多量に使われていて、他のヨットよりも遥かに重たいヨットなんだから」
隆は、あっという間に最後尾に追いやられてしまって残念そうな顔をしているクルーたちに言った。
「ラッコの後ろって、もう中村さんのアクエリアス1艇しかいなくなっちゃったね」
麻美子は、ラッコの後ろを振り返りながら言った。

ヨット教室物語・第107話

ラッコのクルーたちは、自分たちラッコのヨットが、他のヨットよりも1番先頭で走っていることに気づいて、口々に話していた。
しかし、しばらく走っていると、ウララがラッコに近づいてきて、そのまま、ラッコのことを追い抜いて行ってしまった。ウララだけではなかった。他のヨットたちも、どんどんラッコに追いついてくると、次々と追い抜かれていき、気づくと一番最後尾から2番目の位置を走っていた。
「せっかく1番だったのに、追い抜かれちゃったよ」

ヨット教室物語・第106話

隆のヨット歴は長く、隆が中1の時に、ここの横浜のマリーナで開催されているジュニアヨット教室に参加していた頃までさかのぼる。
隆は、ヨットレースはあまり好きではなく、ヨットの乗り方は常にクルージング派のセーラーだった。
それでも、ヨット歴だけは長かったのとジュニアヨット教室時代は、他のヨット教室の生徒たちとレースで競い合って乗っていたため、ヨットレースの技術は持ち合わせていた。
「ね、もしかしてラッコが一番で走っている?」

ヨット教室物語・第105話

地井さんの27フィートのモーターボートが、今日のクラブレースのコミッティ艇を務めてくれていた。コミッティ艇上では、10分前、5分前に旗を掲揚してくれていて、その旗でレースのスタート時間がわかるようになっていた。そして、スタートとともに掲揚していた旗を下ろしてレースはスタートした。
「よし、スタートラインぴったりでスタートできたぞ!」
隆は、地井さんのモーターボートから鳴ったスタートの合図を知らせるホーンと同時に、どのヨットよりも早く一番でスタートラインを越えてスタートしていた。

ヨット教室物語・第104話

「クラブレースのコースってわかったのか?」
隆は、ラッコのステアリングを操船しながら、麻美子に質問した。
「金沢沖の赤ブイを反時計回りで回るのよね」
「そうね」
「で、沖合いの黄色ブイを時計回りに回って」
「確か、そうだったわね」
「それで戻ってきたら、そのままゴール」
隆に質問されて、麻美子は相槌ちを打っているだけで、陽子が隆に詳しく説明していた。

ヨット教室物語・第103話

説明の中にヨットレースの専門用語が多く出てきて、麻美子には話の内容がほぼ理解できないでいた。
「最初は半時計回りで回るけれども、次のブイは時計回りで回るのですね」
陽子は、松浦オーナーの説明する内容を理解して、松浦オーナーにちゃんと確認も取っていた。
「すごいな、陽子ちゃん」
麻美子は、自分が全く理解できていないヨットレースの説明をしっかり把握している陽子に感心していた。
「松浦さんの話していることを、よく理解できていたわね」

ヨット教室物語・第102話

「それじゃ、艇長会議を始めます!」
ウララの松浦オーナーが、艇長会議の進行役を買ってでていた。うちの横浜のマリーナでは、本格的にヨットレースをやっているヨットといえば、松浦オーナーのウララぐらいしかいなかった。
ウララが、ヨットレースに関してはマリーナで一番詳しいヨットとなるため、横浜のマリーナでクラブハウスを開催するときは大概、ウララが陣頭指揮を取ることが多かった。
「本日のクラブレースのコースですが」
松浦オーナーが、クラブレースの開始時間やコースなどについて、今日のクラブレースに参加するヨットのオーナー達に説明していた。

ヨット教室物語・第101話

「9時からクラブハウスでクラブレースの艇長会議だってさ」
麻美子は、マリーナ事務所で聞いてきたことを隆に報告した。
「じゃ、麻美子が艇長会議に出て来てよ」
「え、私が?無理だよ、私ってラッコの艇長じゃないし」
「大丈夫。陽子が頭いいから、陽子と一緒に艇長会議に出て話を聞いてきなよ」
麻美子は、隆に言われて、陽子と一緒にクラブハウスで始まる艇長会議に出席してくることになった。
「2人が参加してる間に、うちらは出航準備しておくよ」

中古車輸出・第89話

「どうだったの、ちゃんとバスの写真は撮れたの?」
ゆみが会社に戻ると、皆が心配してくれた。
「大丈夫、ちゃんとバスの写真いっぱい撮れたわ」
ゆみは、シャランたちに答えた。
「道は迷わなかった?」
「カーナビがまた迷ったわ」
「カーナビじゃなくて、ゆみちゃんが迷ったんでしょう」
シャランは、ゆみに言った。
「私は、バスの屋根ですぐわかったの」

中古車輸出・第88話

「あの、私の落札したバスの写真を撮りに来たのですけど」
ゆみは、車を入り口の駐車場に停めて、守衛さんに聞いた。
「ああ、どうぞ」
ゆみは、バスの側まで行くと、前後左右と何枚も写真を撮ってから、車内に入った。運転手さんの席や乗客の席、後方に付いていたトイレの中、収納棚などありとあらゆる場所を撮った。
「あなたが落札したの?」
「はい。アフリカのマラウィって国の人が購入したんです」
「へえ、あなたがアフリカまで届けてあげるんだ」
守衛のおじさんは、ゆみのことを頻りに褒めて、感心してくれた。

中古車輸出・第87話

「あ、あった!」
ゆみは、自分が落札したバスの青い屋根を見つけて興奮していた。
昨日、新潟から横浜の埠頭に陸送されてきたばかりのバスだった。今朝、カーナビに埠頭にある保税地域の住所を入力してきたのだが、案の定、道に迷ってしまったゆみだった。
「カーナビさん、ここどこなの?」
カーナビさんもわからない、最終的に保税地域の塀の上から出ていたバスの屋根で見つけたのだった。

ヨット教室物語・第100話

「今週は、クラブレースがあるから参加してみようか」
隆は、ラッコのメンバー皆に提案した。
「まだまだヨット初心者で、レースなんて出場できるまで上達できていないよ」
「大丈夫だよ。うちの横浜のマリーナのクラブレースは、本格的なレースではなくて、うちのマリーナに保管されているヨットだけの内輪なクラブレースだから」
隆は、不安そうな瑠璃子に説明した。

ヨット教室物語・第99話

「それじゃ、今から夏休みに向けて会社の休暇を貯めておかなくちゃ」
「私、会社の有給休暇は使わずじまいで、けっこう貯まっているから大丈夫」
年齢的にも、勤続年数の一番長い雪が、皆に行った。
「伊豆七島って、どこらへんまで行くの?」
「そうだな。まだはっきりとは決めていないけど、大島、新島、式根島ぐらいまでは行きたいな」
隆は、陽子に答えた。

ヨット教室物語・第98話

「海で魚とか釣れたら、魚を野菜と一緒にオーブンで焼くのも良いかも」
陽子が、麻美子に料理を提案した。
「夏になったら、1週間ぐらい使って伊豆七島にクルージングへ行くから、その時、海に釣竿を垂らして、魚を釣ろう。そしたら、その魚をオーブンで料理したら美味しいぞ」
隆は、陽子に話した。
「伊豆七島まで、このヨットで行けるの?」
「行けるさ。このヨットならば、行こうと思ったら、伊豆七島どころか世界中どこへだって行けるさ」

ヨット教室物語・第97話

「ラザニアと一緒に、ミートパイも焼いたのよ」
陽子は、ラッコのギャレーに付いているガスオーブンを使ってパイを焼いていた。
「先週、ここのガスコンロの下にオーブンが付いているのを見つけて、焼いてみたくなったんだ」
陽子は、皆に自分が焼いたミートパイの味を褒められて、嬉しそうに話していた。
「オーブンって、こういう使い方できるのね。私も、ラッコにオーブンが付いているのは知ってたけど、どんな料理を作ったら良いかわからなかった」

ヨット教室物語・第96話

隆たち横浜のマリーナに停泊しているヨットたちは、お昼の時間になると、よくここの貯木場にヨットを停泊して、皆でキャビンの中でお昼ごはんを料理して、船で飲んだり食べたりしていた。
「本当に、今日は豪華な料理だな」
隆は、改めてメインサロンのテーブルの上に並べられた料理に感嘆していた。これまでのラッコのお昼ごはんといえば、麻美子が自宅で作ってきたタッパーに入った料理をお皿に盛り付けて、テーブルに出して食べるだけだった。ラッコのキッチン、ギャレーには、せっかく立派な調理設備が一式揃った台所が完備しているというのに、それらは全く使われるということがなかった。

ヨット教室物語・第95話

ちなみにイルカのプールが置かれている貯木場は、横浜の金沢区にある周りを岸壁で囲まれた港内で、この場所が後に、横浜ベイサイドマリーナというアウトレットモールも併設された巨大なヨットハーバーに生まれ変わることとなった。
横浜ベイサイドマリーナに生まれ変わってからは、お昼を食べようと、マリーナ内のポンツーンにヨットやボートを停泊すると、マリーナ事務所に停泊料を払わなければならないが、横浜ベイサイドマリーナが完成する前の貯木場だった頃は、横浜のマリーナに停泊している隆たちのヨットが、お昼休憩で貯木場内に出入りして、そこに置かれているイルカのプールにヨットを停めようが、誰にも停泊料なんか支払う必要もまったく無かった。

ヨット教室物語・第94話

お昼の時間、ラッコは、いつも貯木場に置かれている元横浜博覧会のイルカのプールに横付けしていた。ラッコがイルカのプールに横付けし終わると、キャビンの中では、パイロットハウスの一段下にあるキッチン、ギャレーに女性クルーたちが皆集まり、お昼ごはんを作り始めたのだった。
ちなみにラッコとは、隆が所有しているセーリングクルーザーの船名だ。
ラッコがイルカのプールに横付けしてから、しばらくすると同じ横浜のマリーナにヨットを保管している仲間のヨットたちも、次々とやって来てイルカのプールに横付けしていた。

ヨット教室物語・第93話

今日のお昼ごはんは豪華だった。
「ただのパスタじゃないんだ、ラザニアまで付いているの」
隆は、ラッコのメインサロンのテーブルに並べられた料理を見て驚いていた。
「今日のお昼は、私が作ったんじゃないよ」
「麻美子の作った料理じゃないってことは、一目で見てわかった」
隆は、麻美子に言った。

ヨット教室物語・第92話

クルージングヨット教室の一環で、ヨットに乗りに来ているというのに、ヨットの操船方法の説明の時も、このぐらいは盛り上がってくれよと隆は思っていた。
「でも、隆さんとお付き合いはしているのですよね?」
「私たちって、お付き合いなんかしていたことあったっけ?」
麻美子は、隆に聞いてみた。隆は、首を大きく横に振った。
「麻美子とは別に付き合ってなんかいないよ」
「ほら、なんか大学生の頃から相性が良かったんで、いつも一緒にいただけなのよ」
麻美子は、皆に答えていた。皆は、ふーんって感じで頷いていた。

ヨット教室物語・第91話

「それで、あまり夜が遅くなると、麻美子の弟の部屋に泊めさせてもらってるの」
「ひとつ屋根の下って、それってもう夫婦みたいなものじゃないですか」
皆は、隆と麻美子の話で大いに盛り上がっていた。さっきまで隆がヨットの操船方法について説明していたときは、こんなには盛り上がることなど全く無かったのに、盛り上がり方が雲泥の差だった。
「やっぱ、もう2人は夫婦っすね」
「確かに!ぜったいそうだね」

ヨット教室物語・第90話

「隆さんって、いつも会社の仕事が終わると、麻美子さんの家で夕食を食べているんですか」
「麻美子のお母さんがすごく料理上手の人でさ、田舎から都会に出てきて一人暮らししている俺の栄養とか食べるもののことを心配してくれて、作ってくれてしまうんだよ」
隆は、陽子に答えていた。
「うちのお父さんが輸出入の貿易商で日本とサンフランシスコに拠点があって、今は弟がサンフランシスコの事務所に赴任しているから、弟のいた部屋が余っているのよ」
麻美子がつけ加えた。

ヨット教室物語・第89話

「ええ、麻美子さんって、ぜったい隆さんの奥さんだと思っていた!」
「口げんかの仕方とか、話し方とか完全に夫婦の会話だったものね」
ラッコの女性たちは、コクピットで口々に話し始めた。
皆、さっきまでのヨットの操船方法の話をしているときとは明らかに違うテンションで、楽しそうに隆と麻美子の話で盛り上がっていた。
「麻美子さんって中目黒に住んでいるんですか?」
「隆さんと麻美子さんって同じ会社なんですよね」

ヨット教室物語・第88話

「夫婦?」
「奥さんじゃないんですか?」
陽子は、ラットを握っている隆の横の空いている場所に腰掛けながら、隆に言った。
「え、勘弁してよ。麻美子は、別に奥さんじゃないよ。ただの大学時代の同級生」
隆は、陽子に答えた。
「え、結婚していないんですか?」
「していないわよ。夫婦でもなんでもないもの」
今度は、雪が麻美子に聞いて、麻美子が雪に答えていた。

ヨット教室物語・第87話

コクピットに戻ってきた麻美子に、隆は言った。
「ロープがだめで、ヒモがだめならば一体なんて呼んだらいいのよ」
「シート。ヨットでは、ロープのことはシートと呼ぼう」
「シート?なんか腰掛けたくなってしまうような名前」
麻美子は、コクピットの座席に腰掛けながら、隆に言い返していた。
「めちゃ夫婦漫才なんだけど」
「夫婦げんかはしないで」
陽子は、麻美子のことをなだめていた。

– ヨット教室物語・第86話

皆よりも少しだけヨットの乗船経験がある麻美子が指示を出していた。
「ヨットでは、ロープっていう言い方は辞めようか」
コクピットで、操船用のステアリング、ラットを握りながら、隆は麻美子に注意した。
「そっちの赤いヒモを引っ張ってくれる。陽子ちゃんは青いほうのヒモを引いて」
隆がロープと呼ぶなというので、麻美子はロープのことをヒモと呼んでいた。
「ヒモって呼び方もおかしくないかい」

ヨット教室物語・第85話

今日は、初めてのヨット乗船日だった。
先週からクルージングヨット教室は始まっていたが、先週はクラブハウスの2階で座学の講習を受けただけだったので、実質今週が初めてヨットに乗る日だった。
今日は、永田瑠璃子も皆と同じようにスカートではなくパンツを着ていた。
「さあ、メインセイルを上げようか」
隆の号令で、皆はラッコのメインセイルを上げるのに必死になっていた。
「そのロープを引っ張ってくれる」

ヨット教室物語・第84話

「私さ、ヨット教室の生徒さんたちが、うちのラッコにクルーとして大勢来るようになったら、隆が1人ぼっちでヨットに乗ることもなくなるだろうから、今週でヨットに乗るのは辞めようかなと思ってたの」
帰りの車の中で、麻美子は隆に言った。
「でもさ、あの子たちとヨットに乗るのだったら、なんかおしゃべりしてて楽しいし、もうしばらく隆のヨットに乗せてもらおうかなと思い直しているんだけど」
「いいんじゃないの、別に」
隆は、運転しながら麻美子に答えた。

ヨット教室物語・第83話

「それじゃ、来週の日曜日ね」
皆が駅から電車に乗って帰ってしまうと、隆は麻美子を乗せて東京の自宅まで車を走らせた。隆は、渋谷のマンションで一人暮らし、麻美子は、中目黒の実家で両親と暮らしていた。
麻美子には、弟がいるのだが、弟は、いまサンフランシスコに単身赴任していた。
「ね、私なんだけど」
麻美子は、ずっと隆に話し出せずにいたことをようやく車の中で話し出せた。

ヨット教室物語・第82話

「大丈夫、スカートでもどこでも普通に動き回れるから」
瑠璃子は、隆の前で普通にスカートでヨットのライフラインを越えると、キャタツを降りてみせた。
「でも、それじゃ、真下にいる麻美子にスカートの中まる見えだろう」
「え、ぜんぜん見えていないよ」
キャタツの下にいた麻美子は、降りてくる瑠璃子に向かって話していた。
「皆、ここから電車で帰るのかな」
隆は、皆を車で最寄り駅まで送り届けた。

ヨット教室物語・第81話

それから隆1人が混じってはいたが、日が暮れて周りが暗くなるまで、ラッコのキャビンの中では、女の子たちの黄色い声で女子会トークが盛り上がっていた。
「そろそろ、お開きにしようか」
隆の声で、皆は飲み終わったお茶のカップとお茶菓子を片付けて、船台の上のヨットから降りた。
「大丈夫か、スカートで下りられるか」
今度は隆が瑠璃子のことを心配していた。

ヨット教室物語・第80話

「すっかりお友達だよね」
麻美子が、香代に話しかけると、香代は麻美子に嬉しそうに頷いていた。
「お友達というよりも、見た目は親子だよな」
「お姉ちゃんと妹」
隆が麻美子に言った親子という言葉を、香代が言い直してくれていた。
「そうよね。お姉ちゃんと妹よね」
麻美子は、訂正してくれた香代の言葉に嬉しそうに笑顔になりながら、香代の頭を撫でていた。

ヨット教室物語・第79話

「私と隆って同級生だよね、私より4つ上だって言っているでしょう」
「あ、そうか。じゃ、俺とも4つ上なのか」
隆がやっと気づいたように言ったので、皆はキャビンの中で大笑いになった。
「それじゃ、この中で1番の年下って誰かな?」
「香代ちゃん」
麻美子は、隣の席に座っている香代の頭を撫でながら、隆に答えた。

ヨット教室物語・第78話

「へえ、麻美子よりも年上なんだ」
「そう、私がこの中で1番の年長者かな」
雪は、隆に答えた。
「そうなんだ。俺よりも年長なのかな」
「だから、私よりも4歳年上だって言っているじゃないの」
「麻美子より年上なのはさっき聞いたよ。俺より上かなって聞いたんだけど」
「何を言っているの?」
麻美子が不思議そうにしていた。

ヨット教室物語・第77話

「ルリちゃんは、会社で経理のお仕事しているんだよね」
麻美子は、今日会ったばかりの永田瑠璃子ともすっかり仲良くなってしまっていて、ルリちゃんと呼ぶようになっていた。永田瑠璃子だけでなかった。鈴木香代は香代ちゃん、中村陽子のことは陽子ちゃんと呼んでいた。柏木雪のことだけは、雪さんと呼んでいた。
「なんで、柏木さんのことだけは雪さんなの?」
隆は、麻美子に聞いた。
「だって、私より4歳も年上だもの」
「そんなこと気にしなくてもいいよ、雪って呼んでよ」
雪は、麻美子に言った。

ヨット教室物語・第76話

麻美子は、その手前にあるキッチンでお湯を沸かして、紅茶とちょっとしたお菓子の準備を始めた。
「お手伝いします」
永田瑠璃子と中村陽子が率先して、お茶の準備をしている麻美子の側にいくと手伝い始めた。
「ね、今日はずっと1日お勉強してたから疲れたでしょう?」
麻美子は、皆に聞いた。
「うん、知恵熱が出たかも」
「そうよね、お茶淹れるからくつろいでね」

ヨット教室物語・第75話

横浜のマリーナでのクルージングヨット教室は、いつも毎年春から秋にかけて開催されていて、いつも生徒の比率は男性より女性の方が多いから、男性生徒はレース艇に振り分けられてしまい、隆たちのようなクルージング専門のクルージング艇には女性しか振り分けれなくなってしまうのも定番になっていた。
「ソファに座って寛いでいてね。お茶を淹れるわ」
皆は、パイロットハウス前方の一段下がったところにあるダイニングのソファに腰掛けた。

ヨット教室物語・第74話

「そのドアを開けて、中へどうぞ」
麻美子は、一番ドアに近いところに立っていた中村陽子に声をかけると、中村陽子はドアを開けて、ヨットのキャビンの中へ入った。
「いっらしゃい」
メインサロンの床板を開けて、中に入っているエンジンの整備をしていた隆が顔をあげて答えた。
「生徒さんたち皆、若くてかわいい女の子ばかりよ」
麻美子は、隆が喜ぶかなと思いながらそう伝えたが、隆は別にそうでもなかった。

ヨット教室物語・第73話

むしろ、キャタツの上り下りで苦労していたのは、自分と同年代ぐらいの柏木雪だった。
柏木雪は、スカートではなくパンツを履いていたが、うまくキャタツを登れずに、麻美子が下でずっとしっかりキャタツを抑えていて、ようやく上まで登れたのだった。
「中に作業中の汚いおっさんがいるけど、オーナーだから驚かなくて大丈夫よ」
麻美子は、一番最後にキャタツをよじ登ってデッキへ上がると、デッキ上にいる皆に言った。麻美子も、初めてこのキャタツを登ったときには、上手くよじ登れなかったものだ。

ヨット教室物語・第72話

「スカートじゃ上がれないものね。私と一緒に下でお話ししていようか」
生徒の永田瑠璃子は、その日はパンツでなくてオーバーオールタイプのジャンパースカートを着ていた。それを見て、麻美子は、永田瑠璃子にそう伝えようとしていたのだったが、その前に、永田瑠璃子は既にスカートをくるっと畳むと、上手にキャタツをよじ登ってデッキ上に上がってしまっていた。
「うわ、さすが若い子は身体が柔らかくて機敏ね」
麻美子は、スルスルとロングスカートでキャタツをよじ登ってしまった永田瑠璃子の姿を見て呟やいていた。

ヨット教室物語・第71話

「それじゃ、これから、うちのヨットをご案内しますね」
麻美子は、生徒たちに言うと、ラッコの船体にキャタツをしっかり掛け直した。
隆のヨットは、横浜のマリーナ海上に係留されて保管されているわけではなかった。横浜のマリーナ内の敷地に船台というヨットの船体を上に載せて保管しておける台車があって、その台車の上にラッコのヨットを載せて陸上で保管されていた。
なので、陸上で保管されているときは、ヨットの船体に長いキャタツを立てかけて、キャタツを登って船体のデッキ上に乗り降りしているのだった。

ヨット教室物語・第70話

ヨット教室の生徒さんの振り分けは、麻美子が迎えにくる以前から既にマリーナのスタッフ間で決められていて、クルージングヨット教室の生徒さんたちは、もともと7:3で女性の数の方が多いのだった。
ウララのようなレース艇たちに若い男性生徒さんたちを先行して振り分けしてしまうと、もうあと残りは女性しか残らないのだった。
なので、必然的にラッコへの振り分けは女性ばかりになってしまっていた。