NY恋物語・第157話
「はい、着きましたよ」
中山先生は、5階で降りると目の前のドアの鍵を開けた。前のように、ゆみと良明が廊下を追いかけっこすることもなかった。
「あ、猫!」
玄関に入ると、2匹の猫が2人のことを出迎えてくれていた。
良明とは、面識があるらしく灰色の猫が撫でられていた。
「かわいい猫」
ゆみは、もう1匹いる白い猫の方を撫でてあげようとしゃがんだ。
ニューヨーク生まれの今井ゆみが生まれてから7才まで暮らしたアメリカでの生活からイマジネーションしたニューヨーク物語です。
「はい、着きましたよ」
中山先生は、5階で降りると目の前のドアの鍵を開けた。前のように、ゆみと良明が廊下を追いかけっこすることもなかった。
「あ、猫!」
玄関に入ると、2匹の猫が2人のことを出迎えてくれていた。
良明とは、面識があるらしく灰色の猫が撫でられていた。
「かわいい猫」
ゆみは、もう1匹いる白い猫の方を撫でてあげようとしゃがんだ。
「良明君って、先生の家を知っているんだ」
「ついこの間、遊びに来たばかりだからね」
中山先生は、ゆみと話していた。
「はい、ありがとう」
中山先生は、エレベーターのドアを開けて、待っていてくれた良明にお礼をいうと、ゆみと一緒にエレベーターの中へ乗りこんだ。
「本当に5階であっているの?」
ゆみは、前に良明の家へ行った時に、エレベーターで追いかけっこした時のことを思い出して、良明に確認していた。
「さあ、次で降りるわよ」
中山先生は、2人を連れて電車降りた。
「先生の家って、この駅から近いの?」
「うん、駅を降りたらすぐよ」
中山先生は、電車を降りると、階段を上がって地上に出た。地上に出ると、良明は先生の手を離して、2人のずっと前、先頭を走っていき、アパートメントのエントランスから中に入ってしまった。
「中に入ってしまったよ」
「あそこが先生の家だからね」
中山先生は、ゆみに言った。
中山先生は、2人を連れて、電車の先頭車両、一番前に連れていった。
「ほら、おもしろいでしょう」
中山先生は、2人に電車が線路を走っていく姿を窓から見せた。良明は嬉しそうに電車が進んでいく線路を眺めていた。
「ほら、これから地下に入るからね」
中山先生が言うと、今まで地上の高架橋の上を走っていた地下鉄が、マンハッタンに入る手前から地下のトンネルの中へと走っていった。
「良明君、そんな先に先に行かない方がいいよ」
ゆみは、地下鉄のホームを走っていく良明に声をかけた。
「良明君、こっち来なさい」
中山先生が良明のことを呼び戻すと、良明の手も握った。その前から大人の中山先生の手を握っていたゆみのことを、さすがニューヨークの地下鉄の危険を理解していると感心して眺める中山先生だった。
「地下鉄の中では静かにしましょうね」
中山先生は、2人に告げると、やって来た電車に乗りこんだ。
ブロードウェイの地下鉄は、メインストリート通りの上空に線路があって、そこを走っていた。
「それでは、地下鉄に乗って出かけましょうね」
中山先生は、2人を連れて地下鉄の改札にトークン(地下鉄用コイン)を入れると、改札を通り抜けて駅のホームへと上がった。
「良明君、そんなに先へいかないの」
良明は1人先頭を歩いていたが、ニューヨーク暮らしの長いゆみは大人の中山先生の手を握って、一緒にくっついて歩いていた。
「良明君、ゆみちゃん」
ブロードウェイの地下鉄駅に上がる階段の前で、中山先生が待っていた。
「今日は、宜しくお願いします」
隆は、中山先生に挨拶した。
「それじゃ、後で夕方に迎えに行くから」
隆は、ゆみに伝えると、良明のお母さんと一緒に車で帰ってしまった。
「行きましょうか」
中山先生は、ゆみと良明を連れて歩き出した。
ブロードウェイには、学校で必要な文房具がなんでも揃っているような文房具店や日本食のスーパーもある便利な街だったが、ゆみはあまり好きではなかった。
「良明、ゆみのことしっかり守ってやってくれるか」
隆は、良明に言った。ブロードウェイは何でも揃う便利な街だが、治安があまり良い街ではなかった。
「良明は、お兄さんなんだから守ってあげなきゃね」
良明のお母さんも言った。
「先生、地下鉄で通っているものね」
中山先生は、ゆみたちの通うPS24とクイーンズの日本人学校に、ニューヨークの地下鉄、サブウェイで通勤していた。
「あ、ちょうどそこのパーキングメーター空いてる」
隆は、車を停めた。リバデールを下ったところにあるブロードウェイは、マンハッタンへの地下鉄の駅もあり、ヤンキースタジアムにも近い、大通りが商店街になった賑やかな街だった。
「良明君、一緒に歩こう」
ゆみは、良明の手を握って緊張していた。
「お兄ちゃんが、先生ん家まで連れて行ってくれるの?」
ゆみは、良明と一緒に後部座席に乗り込みながら、隆に聞いた。
「いや、ブロードウェイまで送ってやる」
隆は、ゆみに返事した。中山先生とは、ブロードウェイで待ち合わせしていて、そこから先生ん家までは地下鉄に乗って行く予定だった。
「先生ん家ってどこ?」
「マンハッタンのセントラル・パークの近くだよ」
「ゆみ、行くぞ」
「はい、お兄ちゃんちょっと待ってよ!」
ゆみと良明のお母さんは、部屋から出てきた。お出かけするのに、良明のお母さんが、ゆみの長い髪をブラッシングしてくれていたのだった。
「良明がお待ちかねだぞ」
隆は、髪のブラッシングを終えて出てきたゆみに言った。
今日は、中山先生と約束した先生の家へ遊びに行く日だった。
「ただいま」
玄関で鍵を開ける音がして、隆が会社から帰ってきた。
「隆、帰ってきたの?」
由香は、ゆみとLINEで話していた。
「由香、またゆみと話していたんだ」
「毎日、お話しているものね」
ゆみは、由香に頷いた。
「ゆみのお姉さんみたいだな」
「お姉ちゃんじゃなくてお母さん」
ゆみが小声で呟いて、由香とにっこりウインクしていた。
絶交と言っていた由香だったが、ゆみの様子が気になり、数日後には隆とLINEしていた。
「ねえ、大丈夫?なんか困ってない?」
由香は、ゆみとLINEで話していた。
「クラスに日本人のお友達ができたのよ」
「そうなの、良かったじゃないの」
由香は、毎日のように、ゆみと話すようになっていた。ゆみも、学校で会ったことは全てまず由香に話してから、夕食の時に隆へ報告するようになっていた。
「ねえ、お母さんどう思う?」
由香は、機内でお母さんに話しかけた。
「おまえは日本の大学行けよだってさ」
「そうね、あなたもニューヨーク残って良かったのにね」
「全く!隆ってあいつさ」
由香は、機内にいる間ずっと機嫌が悪かった。
「もう、あいつとは絶対に話さないんだ、絶交よ」
「俺たち、夫婦じゃないんだからさ」
隆は、由香に言った。
「由香は、日本に帰って大学へ行けよ」
「この子は私にとっても子供のようなものだし、私は別に隆とさ」
「おまえは、大学へ行けるんだから進学しなよ」
隆って優しいんだけど本当鈍感だよな、そう思いながら、由香は家族と一緒に日本へ帰国する飛行機に搭乗するのだった。
しかし、隆の大学進学の夢は叶わなかった。
「俺さ、日本の大学は行かない!」
隆は、由香に伝えた。
「そうだね、私もニューヨークに残るよ」
由香は、生まれたばかりのゆみを抱きかかえながら、隆に言った。
「何を言っているの?」
「隆が働いている間、この子を育てていく人も必要でしょう」
その後、隆も由香と同じ慶應大学の経済学部を受験してみることとなった。そして、2人とも大学に合格が決まった。
「すごいじゃない!おめでとう!」
「俺が日本の大学に行ったら、お母さんはその子を1人で育てることになってしまうね」
「何を言っているのよ、この子にはお父さんもいるでしょう」
隆の母は、大きなお腹を撫でながら、隆に言った。
「向こうからメールとかするね」
「由香はラッキーだよな、卒業と家族の帰国が同時だから、卒業したら家族と日本に帰れば良いのだから」
隆は、由香に答えた。
「俺は、卒業しても家族は帰国じゃないんだよ」
「だから、隆だけ進学のため帰国すれば良いでしょう」
由香は、隆に言った。
「もう大学生なのだから、親元離れて独立しなさいよ」
「そうだな」
隆のお父さんは、いま隆が働いている日本の大手商事会社のニューヨーク支店勤務だった。由香のお父さんは、その商事会社の取引先でもある貿易会社を経営する社長さんだった。
「将来、父の会社は弟が継ぐんだけど」
由香は、同級生の隆と話していた。
「私も父の会社で働きたいし、経済の勉強したいから日本で大学の経済学部へ進学する」
「それ良いよな、俺も日本の経済学部に進みたいな」
隆は、由香に答えた。
ゆみが生まれる少し前、隆はクイーンズの日本人学校に通う高校生だった。
「隆は、まだ進路決まらないの?」
「ああ」
隆は、由香に答えた。
「隆も、商事会社に就職したいんでしょう。だったら経済の勉強するのが良いって」
「それはそうなんだけどさ」
隆は、由香に答えた。
「由香は、卒業後に家族と帰国だろうけど」
ゆみは、いつも学校から帰ると、家には犬のメロディしかいなかった。
「ただいま、メロディ」
ゆみは、メロディに言った。
隆は、まだ会社で仕事中なので帰って来ていない。隆が帰って来るまでの時間は、パソコンでLINEを起ち上げながら、家で勉強したり夕食の準備をしている。
ゆみのLINEの相手は由香お姉ちゃんだった。
「由香お姉ちゃんに聞いたの?」
「さっき、夕方にLINEした」
隆は、ゆみに言った。
「それで、いっぱい宿題もらったんだって」
「そうなの、分厚い本を読まないとならないの」
ゆみは、隆に言った。
「さっきも、由香お姉ちゃんとLINEしながら一緒に読んでたの」
「でも、今度の週末におまえと良明で先生の家に行くことになったから」
「そうなの?」
ゆみは、隆に聞いた。
「中山先生が、良明とおまえが行く方が良いかもってさ」
「うん!だって私たちお友達だし、クラスメートだもの」
ゆみは、隆に大きく頷いた。
「それは、ともかく学校で先生に怒られたんだって?」
隆は、ゆみに聞いた。
「あのさ、おまえが先生の家に行くのか?」
「え?」
夕食の時、ゆみは兄の隆に聞かれた。
「中山先生の家に、良明と遊びに行くのか?」
「え、うん!」
なんで今日学校であったことを隆が知っているのか不思議だったが、ゆみは頷いた。
「あれは、良明がヒデキと仲良くなるために行くはずだったんだぞ」
隆は、ゆみに言った。
「良明君、来れますよね?」
先生は、良明に聞いたが、良明は黙ったままだった。
「英語が、まだわからないのかな」
「そうみたい、私が迎えに行って連れてきます」
ゆみが慌てて先生に答えた。たぶん英語がわからないのでなく、人見知りで黙っているんだということが、ゆみにはなんとなく理解できた。
「それじゃ、そうしてちょうだい」
先生は、ゆみに言った。
「あの先生、良明君なんだけど」
ゆみは、先生に言った。
「来週は、ミスタールビンがあると思うの」
「ミスタールビンは40分だけよね、終わったら、こっちに来れるわね」
先生は、ゆみに告げた。
「ミスタールビンの授業を受けている日本人の子たちだけど、授業終わるとそのまま解散で下校している子が多いけど、午後はミスタールビンの授業だけじゃないのよ」
「先生、ごめんなさい」
ゆみは、良明を連れて、先生の前で謝っていた。
「わかった、今度から図書室ではお静かにね」
先生は、ゆみと良明に言った。
「その代わり、ゆみちゃんはこの本、良明君はこっちの本を読んで来週までに感想文ね」
先生は、ゆみにはいつもより分厚い評論書を渡した。良明には、挿絵が多く入った童話の本を渡した。
「うわ、こんな分厚い難しそうな本」
「ゆみちゃんなら出来るでしょう、罰なんだから頑張って」
「あ、授業終わった」
授業の終わりを告げるベルが鳴った。
「さあ、2人も先生に謝って来ないと」
中山先生は、ゆみと良明に言った。
「うん、良明君行こう!」
ゆみは、良明の手を引いてライブラリー室に戻っていった。
「あの2人の方が家に来るの良いのかもしれないな」
中山先生は、2人の後ろ姿を眺めながら考えていた。
「え、ゆみちゃんが来るの」
中山先生は、ゆみに聞き返した。
「ゆみちゃんは、また別の日に春子ちゃんや智子ちゃんと先生の家にいらしゃいよ」
中山先生は、ゆみに言った。
「ううん、良明君と一緒に行きたい!」
ゆみは、中山先生に言った。
「いいよね?」
ゆみが良明に聞くと、良明は小さく頷いたのだった。
「今度ね、良明君にヒデキ君を誘って、私の家に遊びに行こうって話なの」
中山先生は、ゆみに説明した。
「そうだ、良明君言いにくいみたいだから、ゆみちゃんが代わりにヒデキ君に話してもらえないかな?」
中山先生は、ゆみに聞いた。
「それ、私が行く!」
ゆみは、中山先生に言った。
「え?」
「私が良明君と先生の家へ遊びに行く」
「それじゃ、授業終わるまで職員室に寄らない」
ゆみと良明は、職員室の中山先生のデスクに移動した。
「そういえば、ヒデキ君にお話した?」
中山先生は、良明に聞いた。
「ヒデキ君?さっき会ったよ」
ゆみは、中山先生に答えた。
「あら、そのときお話したの?」
良明は、首を横に振った。
「お2人さんでどうしたの?」
ゆみと良明は、後ろから中山先生に声を掛けられた。
「あ、中山先生!」
「授業中じゃないの?」
「ライブラリーだったんだけど、私たち騒いだから先生に追い出されたの」
ゆみは、中山先生に説明した。
「あら、それはだめじゃないの」
「後で先生に謝るわ」
「ね、どこに行くの?」
ゆみは、良明の後を追っかけて行くと、1階の職員室前に出た。職員室前のコルクボードには、いろいろな地域情報などのポスターが貼り出されていた。
「良明君、これ美味しそうだね」
ゆみは、ドーナッツ屋のポスターを見つけて、良明に言った。良明は、ゆみの指差したドーナッツの写真を舐めようとしていた。
「美味しそうだけど、写真は舐めちゃだめよ」
ゆみは、良明のことを苦笑しながら、止めていた。
「あーあ、怒られちゃった」
ゆみは、良明の顔を見た。良明の方は、そんなことはお構いなしに、廊下の脇にある階段室へと下っていた。
「良明君、どこに行くの?」
ゆみは、良明のことを追っかけた。
「先生、出てきてくれるかもしれないし、廊下にいたほうが良いかもよ」
ゆみは、良明の後を追いかけたが、良明はどんどん階段を下っていく。
「あ、コラ!良明君」
良明が結んであったポニーテールのヘアゴムを外して持って、書棚の奥へと逃げていった。
「良明君、待ちなさい!」
ゆみは、良明のことを追っかけた。
「オーライ、ユーガイズ。ゴーアウト」
先生は、ゆみと良明のことを捕まえると、教室の外に追い出されてしまった。
「静かにしようね」
ゆみは、良明に小声で言った。
「どの本が良いかな」
ゆみは、英語がわからない良明でも読みやすそうな本を探してあげていた。そのゆみの後ろから、良明がポニーテールに薄い雑誌をぶら下げた。
「キャ、なに」
ゆみは、自分の髪を抑えながら、後ろを振り返って、良明のことを見た。
良明は、周りの視線などお構いなしに、またゆみの頭に本を乗せた。
「やだ、なになに?」
ゆみは、思わずまた声をあげてしまっていた。良明は、ゆみのポニーテールにしている長い髪に本を結びつけようとしていた。
「結べないよ」
ゆみは、思わずまた大きな声を出してしまった。
「ゆみ、ビークワエット!」
ゆみは、先生に怒られてしまった。
「どれか読みたい本ある?」
ゆみは、良明に聞いた。
良明は、書棚から本を1冊取ると、ゆみの頭の上に乗せた。
「え、なに?」
ゆみは、頭の上に乗せられた本を手に取って、思わず笑ってしまった。
「あ、静かにしなきゃ」
ゆみは、図書室の周りの視線を感じて良明に言った。
「ゆみちゃん、彼は?」
「良明君、うちのクラスの新入生」
ゆみは、先生に聞かれて、良明のことを紹介した。いつも、この時間はミスタールビンの授業に出ているので、良明は初めてのライブラリーだった。
「好きな本を書棚から探して読んで。読みきれなかったら持ち帰って、来週までに感想文を書いてきてください」
先生は、遅れてきたゆみたちに授業の内容を説明した。
「好きな本を探していいって」
ゆみは、良明の手を引いて書棚の方に連れていった。
「もう授業始まってるから、静かに入ろうね」
ゆみは、教室の表で良明に注意した。
「エクスキューズミー」
ゆみは、良明の手を引いて、静かに教室の中へ入って、シャロルの横に座った。
「どうした、ミスタールビンは?」
「風邪でお休み」
ゆみは、シャロルに小声で答えた。
「そしたら今から読書して、来週までに感想文を提出してください」
「一緒に自習していこうよ」
ヒデキは、ゆみを呼び止めた。
「私たちは、クラスの授業があるもの」
「じゃ、良明だけでも自習していけば」
ゆみが良明をみると、良明は首を振った。
「私と一緒にライブラリーに出るって」
ゆみは、ヒデキに言うと2人でライブラリー室に急いだ。
「良明っていつもゆみちゃんと一緒だよな」
ヒデキは、悔しそうに2人の後ろ姿を眺めていた。
「ゆみちゃんー!」
ゆみが良明の手を引いて、ライブラリー室に向かおうとしていると、呼び止められた。
「あ、ヒデキ君」
ゆみは、ヒデキに返事した。
「ミスタールビンお休みだから、ライブラリー室に行くの」
「俺ら、ここで自習するよ」
ヒデキは、ゆみに言った。
「そう。それじゃ、私たちは遅刻しちゃうから行くね」
ゆみは、良明を連れて行こうとした。
「なので、ミスタールビンの授業はお休み」
アシスタントは、ゆみに言った。
「お休みだって、どうしようか」
ゆみは、良明の方を見た。
「ゆみちゃんのクラスは、午後の授業はないの?」
「うちのクラスは、ライブラリーの授業よ」
ゆみは、アシスタントの先生に言った。
「そうか、良明君もライブラリーに出席しようか」
ゆみは、良明を連れて、ライブラリーの教室へ行くことにした。
「はい、全部食べ終わりました!」
ゆみは、空っぽの良明のお弁当箱をバッグに戻しながら、良明に言った。もうすっかり、お昼のランチタイムは、ゆみが良明にお弁当を食べさせるようになっていた。
「午後はミスタールビンの授業よね」
ゆみは、良明を連れてミスタールビンの教室に移動した。
「こんにちは、ミスタールビンいますか」
「今日は風邪でお休みなの」
アシスタントの先生が、ゆみに告げた。
「え、食べさせているのですか?」
隆は、お昼を食べながら中山先生からゆみの話を聞いていた。
「恋人同士とか、付き合っているのか」
「そうじゃないわよ、良明君がお昼を食べないんですって」
中山先生は、隆に説明した。
「そうなんですか」
「付き合っているって聞いて、ゆみちゃんのお父さんの顔になったわね」
「これで、申請は完了です」
中山先生は、隆から入学申込書を受け取ると、隆に伝えた。
「これからどうするの?」
「マンハッタンの会社に戻りますよ」
隆は、中山先生に答えた。
「お昼は?もし、これからだったら、近くで一緒にお昼しない?」
「いいですね」
隆は、中山先生と学校裏のカフェへ食事に向かった。
「隆さん、今日はどうしたんですか?」
「新しい新入生連れて来たよ」
隆は、クイーンズの日本人学校にいた。
ゆみが通っているのはPS24小学校で、クイーンズの日本人学校には通っていなかったが、ニューヨーク支店の同僚たちの中には、息子、娘がこちらの小学校に通っている方もいるので、総務部配属の隆は、こちらの小学校にもよく来ることが多かった。
クイーンズの日本人学校は、隆の母校だった。ゆみが生まれる前まで小等部、中等部、高等部と通っていた。
「ゆみ、良明のお母さんみたいだよ?」
シャロルは、ゆみが良明に食べさせているのを見て笑った。
「だって、食べないのだもの」
ゆみが、シャロルに返事した。
「午後の授業始まる前に食べさせちゃおう」
「そうね」
ゆみは、良明のお弁当を箸で取ると、良明に食べさせた。
結局、それからのランチタイムは、ゆみが良明のことを食べさせるようになった。
「ねえ、食べようよ?」
ゆみは、良明に言った。
「待って、こっちに置くわ」
「また待ってなの」
シャロルとマイケルは、食事を終えてチェッカーゲームをしていた。
「せっかくお母さんが作ってくれたのに」
ゆみは、良明のお弁当を箸で取ると、良明の口元まで持っていった。
ゆみが良明の口に入れると、ようやく良明は食べた。
「そっちの白いのも食べてもいいかな?」
ゆみは、良明の方をチラッと見てから、マイケルに答えた。
「白いのはライスよ、食べても良いんじゃない」
ゆみの返事で、マイケルは良明のお弁当のお米も一口食べた。
「美味いね」
「私も、ライス食べてみたい」
シャロルも、良明のお弁当のお米を一口食べた。でも、良明は、自分のお弁当を食べなかった。
「何それ、俺も食べたい!」
マイケルが言うと、ゆみの返事を待たずに一口食べてしまっていた。
「美味いよ、これ。もう1ついいかな」
マイケルは、良明のお弁当を二口も食べてしまった。
「そんな勝手に食べたらだめよ」
シャロルは、マイケルに注意した。
「全部食べられちゃうよ」
ゆみは、良明に自分でも食べるように言った。でも、良明は座ったまま、お弁当を食べようとしなかった。
「シャロルが食べてみたいって、あげてもいい?」
ゆみは、良明に聞くと、小さく頷いた。
「食べても良いみたいよ」
ゆみの返事で、シャロルは良明のお弁当のおかずを一口食べた。
「美味しいね」
「生姜焼きっていうの」
ゆみは、シャロルに説明した。
「ゆみも作れる?」
シャロルに聞かれて、ゆみは頷いた。
「お弁当食べよう」
ゆみは、自分のお昼の入った紙袋を開けながら、良明に言った。
「ほら、出して」
良明が座ったままなので、ゆみが勝手に良明のバッグからお弁当を取り出した。
「え、何それ?美味しそう」
「ジャパニーズスタイルのお弁当なの」
ゆみが、シャロルに説明した。
「食べてみたい」
「ランチタイムだよ」
午前中の授業が終わり、ゆみは良明に言った。
「並ぶよ」
ゆみは、いつものように良明の手を引いて立たせると、皆と教室の前に並んだ。
「それでは、行きますよ」
アスター先生の号令で、クラスの皆は教室を出ると、階段を下って地下の食堂へ向かった。
「良明君、今日はちゃんとお弁当持って来たよね」
昨日の今日なので、ゆみが良明に確認した。
「え、中国ではどう発音するの?」
「中国じゃないよ、日本だよ!良明っていうの」
マイケルは、アスター先生に説明した。
「ヨシ、ヨシアキ」
授業の最初、数分間ぐらいは、アスター先生とクラスの皆で日本語の発音練習していた。
「良明、皆も発音できるようになったし、クラスにもっと馴染んでね」
アスター先生は、良明の頭を撫でた。
「良明、日本人だったのね」
「今度、私もゆみと一緒に遊びに行くね」
シャロルは、良明に話しかけた。
良明は、ゆみが昨日家に来たことを2人に話したんだってことに気づいてモジモジしていた。
「おはよう、皆さん」
アスター先生が教室に入って来て、本日の授業が始まった。
「アスター先生、ヨシュワキーは良明君なんですよ」
マイケルが、ゆみから習った正しい発音を先生に教えた。
「ヨシュワキー、ゆみと同じ日本人だったのね」
シャロルは、ゆみに答えた。
「うん、ヨシュワキーじゃなくて良明君よ」
「ヨシ、ヨシ、ヨシア」
シャロルとマイケルは、ゆみに教わり、良明の発音を練習していると、良明が学校へ登校してきた。
「良明君、おはよう!」
早速、正しい発音で挨拶するシャロルだった。
「おはよう、昨日は良明君の家に行ったのよ」
ゆみは、学校でクラスメートのシャロルに話した。
「え、1人で行ったの?私も誘ってよ」
「ヒデキ君とか日本人ばかりだったのよ」
「そういえば、ヨシュワキーって中国人よね」
シャロルは、ゆみに聞いた。
「ううん、良明君は日本人だったのよ!」
「どうして、お兄ちゃんは良明君とお話しできるの?」
ゆみは、家に帰ると、隆に聞いた。
「おまえは、良明とは何も話したことないのか」
「話したことない」
「それは、多分もっと仲良くならないとだめなんだろうな」
隆は、ゆみに言った。
「私も、良明君と仲良くなりたいな」
「ゆみ、そろそろ帰ろうか」
隆は、ゆみを連れて、家に帰るため立ち上がった。
「また、いつでも遊びに来てね」
良明のお母さんと美香が、ゆみに言った。
「バイバイ」
ゆみは、良明たちに手を振ると、兄の隆と一緒にエレベーターに乗ると、2人が住んでいる7階の部屋まで降りていった。